JPNIC 管理下にあるIPv4アドレスの移転提案
白畑 真 (慶應義塾大学 SFC 研究所)
本提案は,APNIC にて「prop-050-v005: IPv4 address transfers」が成立した場合に提案として議論いたします.2009年11月1日現在,メーリングリストでの意見募集が終わり,APNIC ECの判断待ちとなっています.(ポリシーWG)
本提案は、Geoff Huston氏によるポリシ提案「prop-050-v005: IPv4 address transfers」が APNIC28 においてコンセンサスが成立したことを受け、APNIC EC において endorse が問題なく終了することを前提として、
のために、prop-050-v005 相当のポリシを JPNIC においても実装することを提案する。
本ポリシ提案は、IPv4アドレスの割り振り、およびPI割り当てに関する登録情報の、既存のJPNICとの契約者間、およびJPNIC契約者とAPNICアカウント保有者間での移転について、現行ポリシにおける制約を見直す提案である。
本提案は、既存の歴史的資源の移転に関するポリシを再定義するものではなく、現時点において、JPNIC管理下にあるIPv4アドレスに対して適用することを意図している。
現行のJPNICポリシでは、運用ネットワークの管理組織の吸収合併に関わる場合に限定して、 保有しているIPアドレスの登録情報の移転を認めている。
現在、未割り振りIPv4アドレスの在庫は2011年から2012年の間に枯渇することが予測されている。アジア太平洋地域では、IPv4ベースのサービスに対して非常に多額の投資が行われており、IPv6ベースのサービス提供への移行は、未割り振りアドレスの在庫が存在しているよりもおそらく長い期間を要するだろう。
従って、未割り振りアドレスの在庫枯渇後もIPv4アドレスの需要はおそらく継続し、そのような継続的需要を満たすために 「アドレスの保有者間でIPv4アドレスブロックが移転される時期」 に入ると考えられる。
JPNICのIPv4アドレスレジストリとしての目標は、 現在のアドレスの分配情報を正確に記録することである。
本提案では、JPNICが、既存のJPNICとの契約に基づくIPv4アドレスの利用者間、もしくは当該利用者とAPNICアカウント保有者間での移転を認め、 JPNICによる登録情報の移転の前提条件として、移転の当事者に対し、 いくつかの制約を課すことを可能とする。
本ポリシ提案の前提は、レジストリとしてJPNIC管理下にあるIPv4アドレスが一般財であり、現状のアドレス分配が正確に記録されているときのみ価値を持つことである。もし仮に、アドレス移転のトランザクションの一群がレジストリに記録されなければ、レジストリは広範囲なコミュニティにおいて価値を減ずることになろう。また、ネットワーク自身の整合性そのものが侵されることになろう。
本提案の中心となる目的は、既存のJPNICとの契約に基づくIPv4アドレスの利用者間、もしくは当該利用者とAPNICアカウント保有者間のアドレス移転のトランザクションをレジストリが記録することにより、JPNICのアドレスレジストリとしての効用と価値を継続的に担保することにある。
本ポリシ提案は、以下の前提に基づいている。
本提案の主目的は、既存のJPNICとの契約に基づくIPv4アドレスの利用者間、もしくは当該利用者とAPNICアカウント保有者間で移転が行われたIPv4アドレスの移転について、 レジストリ(記録簿)にそれを記録することを可能とすることで、 JPNICならびにAPNICのアドレスレジストリ(記録簿)が一般的に利用され、価値を保つようにすることである。
そして、JPNICないしはAPNICが移転の当事者を知っており、 移転されるアドレスブロックが(歴史的なものではなく) 現在JPNICないしAPNICが管理しているアドレスであれば、JPNICはその移転を認め、 登録することを提案する。
以下については、本提案には含まれない。
JPNIC は、本ポリシが採択され次第、以下の条件に基づいて、JPNIC との契約者間、ないしは契約者と APNIC アカウントホルダとの間において、アドレス移転の要求を処理する。JPNIC は、本ポリシに基づく全ての移転記録を公開する。
本提案はアドレスの移転の存在を認知し、その結果を登録することにより、JPNIC/APNICのアドレスレジストリ(記録簿)が、 資源および資源の保持者に関する正確な情報を今後も引き続き維持することを確実にする。 また本提案は、当該登録情報の正確性を信頼している関係者が、 今後もその情報の正確性を継続して信頼できることを確保する。
特に、以下の効果があげられる。
従来のIPアドレス概念の変更 本提案は、IPアドレスがそれ自体は資産ではなく、貨幣価値を持たず、ネット ワークにおけるルーティングおよびエンドポイントの識別に利用するものである 等の、アドレスとその価値に対する従来の認識をいくつか見直すことになる可能 性をはらむものである。 アドレスとその利用に関するこれらの共通認識が変わ ることで、 いくつかの反応が想定される。すなわち、 ・アドレスの強い経路集約機能が失われ、その結果としてルーティングシステム に対して負荷がかかる。 ・ポリシの枠組みの下地となっている、需要に応じたアドレスの割り振りモデ ルからの大きなシフトとなる。 ・会社法および契約法における、アドレスを資産として扱うことによる法的な影響。 ・アドレスに対する税制の適用とその動向。 ・アドレスの入手および利用に関する不公平、不平等感をサービスプロバイダが 実感する可能性がある。 それに対する返答。いくつかの要素が上記のリスクを軽減する。 ・IPv6への移行が進むにつれ、IPv4ベースのサービス価値とともに、IPv4アドレ スの価値も低下する。 ・JPNICからIPv4アドレスを分配可能な段階で本ポリシが適用された場合、これ まで通り業界で実績を持つJPNICからのIPv4 アドレス割り振りが、(移転以外の) IPv4アドレスの供給元としての選択肢となりえる。 * 本ポリシの施行が、アドレスの回収・再利用への原動力を失わせる 本ポリシ提案が、 IPアドレスの回収・再利用を促進する提案策定への原動力を 失わせることになるとの意見も出ている。 それに対する返答 ・今日まで返却および回収されたアドレスはごくわずかである。金銭的価値に基 づいたメカニズムの導入を除いて、さらなるポリシの改善によりこのような 状況が変わるのものか不明である。 ・また、たとえポリシ策定においてアドレスの回収と再利用を促進したとして も、未割り振りアドレスプールの枯渇後、JPNICが需要ベースの割り振り継続す るにあたって、必要とされるアドレスの量は、回収されるアドレスの量よりも 小さいことがほぼ確実である。 ・重大で未解決の問題は、これらのはるかに大きな需要に対して、JPNICは限られ たアドレスをどのように公平に分配することができるのかということである。 * JPNICが規制を行う役割を求められる可能性 もしJPNICが本ポリシを施行した場合、 JPNICはアドレスの流通市場において 規制を行う役割 (レギュレーター)を求められる可能性がある。 そして、JPNICが 規制措置を執行するにあたっての経験、知識、 権限を持たないことへの懸念が表 明されている。 また、 そのような役割を担うことでJPNICがさらなる訴訟にさら されることになる危険性もある。 それに対する返答 本提案はJPNICがそのような役割担うことを主張するものではない。本提案は、 JPNICがそのレジストリ(記録簿)においてアドレスの移転を認めて登録する条件を 定義することに明確に範囲を限定している。 ・本ポリシの適用がアドレス市場の誘因となるとの通説がある。しかし、それ は必ずしも既存の規制構造の枠から外れた市場活動が行われることを意味しない。 また、マーケットの参加者がそれぞれ所属する政権による既存の規制措置から免除 されるとは限らない。 ・本ポリシの適用に伴うさらなる法的責任については、適切な資格のある機関に よる法的審査の対象とするべきである。 5.3 移転提案に対するコメントのまとめ 本件については、さまざまなRIRのポリシフォーラムにおいて、 これをテー マとしたさまざまなポリシ議論が行われ、 いくつかの見解が確認されている。 のこのポリシ提案は、 RIPEで現在検討が行われているポリシ提案と大筋似通っ ている。 ARINで現在検討されているアドレス移転のポリシは、 レジストリにより 移転が認められるにあたって、 さらに多くの制約が適用される。 これらポリシ の違いに関する議論のまとめは下記の通り。 * "最小限"のポリシを支持する見解 ・本ポリシは、JPNICをアドレスの"所有権管理局"(title office)という立場に 置き、JPNICはレジストリ(記録簿)の運用者として、JPNICの契約者が移転を希 望した場合、移転の手段については、中立であることを確保する。移転の条件 さえ正当に満たされており、なんらかの形で当事者間での合意がとれていれば、 レジストリはその取引を正規のものとして記録することを認めるべきである。 ・JPNICはアドレスの移転方法やその理由に対する各種制約の執行という分野に おいて、実運用経験を持ちあわせておらず、また、それを進めるにあたって 第一人者として現在認められているわけでもない。十分に理解され、認知され ている権限モデルがない状態でポリシ策定を進めることは、その検討結果の 合法性と権限を問われることになる。 ・規制は、全てではないにしても多くの政権において十分よく理解され、馴染み のある概念である。もしアドレスの移転を行う当事者の行為を規制し、制約を 設けることに対して一般的な要求があれば、本分野においてより多くの経験と 権限を持った他の機関と当局も巻き込んでより大きな枠組みの中で進め、既存 の規制構造および実施機構を活用することが望ましい。 ・JPNIC では、今後移転を進める当事者による、どのような行為に対しても、な んらかの制約を行う必要があるのかを判断する経験を持ちあわせていない。制 約の必要性を見越してポリシ策定を試みることは推測の域を出ず、欠陥を伴う。 ポリシで当初どのような制約が設けられていても、このような活動の経験を 積むにつれて、いずれにしても何度か立ち戻って見直す機会が増えることにな る。このアプローチは比較的オープンで制約を設けず、JPNIC以外の全ての形態 では制約を適用することができず、JPNICによる制約の施行に対して、他の機 関の役割とは独立したものとして、明確かつ共通の要望としてある場合に限り、 JPNICがさらなる制約を設けるという立場をとる。 * より多くの制約をポリシで適用することを支持する見解 ・JPNICはアドレス移転について実運用経験がないため、既存の割り振りの枠組 みに関わる各種制約を完全に取り除くのではなく、現在の立ち位置から段階を 踏んでいくべきである。移転先は、現在の割り振りと同じく、需要を証明した 上でレジストリによりその資格を認められるべきである。また、アドレスブロッ クは自由裁量で細分化されるべきではない。運用しているネットワークで直後に 必要であることを主な理由とした場合を除いたアドレスの移管を止めるため、 時間的な制約を適用するべきである。 ・一般的に煩わしく、不要と見なされる制約はいつでも後日取り除くことができ るが、後からさらに制約を加えることは難しい作業となるだろう。 ・アドレスの取引に伴い、いくつか技術的なリスクがある。制約の設けられて いない(アドレスの)細分化により、経路表が際限なく大規模に増加し、ルー ティングシステムの破砕につながる。これは後戻りができない状態である。 * 市場の出現に関する議論 本件についてはさまざまな意見が述べられており、 これに関わるアドレス移 転のポリシ提案は 「アドレス移転を認めることにより、 単一または複数の IPv4アドレス市場の出現を事実上認めることになるとの一般認識がある」 との 見識へ根拠を提供している。 この状況にあてはめた場合、関連する議論のトピッ クとして、 これら移転に関する提案のメリットまたはその他に関する議論は、 市場行動の相対的なメリットおよびリスクに関する検討となっている。 市場の出現に反対する意見には以下があげられる。 ・アドレス市場は移転ポリシの必然的な結果であり、制約のない市場はひずみ を持ついくつかのリスクがある。これらのリスクとしては、不正な市場、信用 取引、金融派生商品および先物取引(market derivatives and futures)、買い だめ、思惑買い等があげられる。パケットの宛先指定をするものとしてのアド レスの用途は市況においては価値が下げられる。 ・市場の運用は、最高値をつけた入札者によってアドレスの価値が定められ、ア ドレスを最大限搾取することを可能とするため、最大手以外の全てのプレイヤーを、 追加のアドレスを入手できるネットワークから締め出す。 ・IPv4アドレスにおける市場の運用はIPv6における自主規制したポリシの効果を 衰退させ、IPv6においてもアドレス市場の出現につながる可能性がある。 ・市場価格を設定する当事者に有利に働く明確なバイアスが市場にかかるという 観点から、市場は不公平であり、支払い能力のない当事者を本質的に差別する。 国際的な状況においては、これは誰にでも入手可能で中立を保ち、差別をしな いコミュニケーション基盤としての一般的な目的に反する。 市場の出現を支持する意見としては以下があげられる。 ・アドレスの枯渇は、レジストリが満たすことのできないアドレスの需要が続く 限り、アドレスレジストリで解決できる問題ではない。市場はアドレスが再利 用され、さまざまなレベルでのアドレスの需要と供給が市場ベースの価格決定 メカニズムにより、調整されていく手段を生み出す。 ・市場取引の文脈において、各段階においていつでもIPv4アドレスの入札以外の 選択肢がある:具体的には、ネットワーク上でIPv6を利用し、上位のプロトコ ルトランザクションサービスを利用することにより、その他古くからあるIPv4 ネットワークへのアクセスを提供する。代案が存在することをかんがみると市 場におけるIPv4アドレスの潜在的な価格は、IPv6の実装とIPv4の移行メカニズ ムによって上限ができる。 ・これはIPv6への移行にあたってのデュアルスタック期間における暫定策である。 IPv4アドレスの市場価格が高くなるとIPv6への移行を進めるよう価格面での圧力 が業界にかかり、その結果、そのような市場の寿命と潜在的な投機は制限される。 アドレス資源を長く売り惜しみすぎると、IPv6への移行が大規模な実装の境界線に 達した時点で市場は自然に終結し、利益が得られなくなるため、市場関係者はア ドレス資源をすばやくリリースするインセンティブを持つ。 アドレス移転に関する本ポリシ提案は、 アドレス移転市場のトピックについ ては何ら語っておらず、また、そのような唯一ないしは複数の市場の出現を擁護 ないしは反対するわけでもないことに注目されたい。 本ポリシはJPNICが、JPNIC会員間でのアドレスの移転を認め、 登録するにあ たっての制約事項を列挙するに留めている。 当事者がどのようにして移転を 行う決断に至ったのか、 そして移転に関わる資産に関する課題、 経済的およ び法的な体制と市場の出現、当該市場の規制の必要性、 市場の規制者の特定は、 明示的に本提案で網羅しておらず、 また、そのような役割をJPNICが担うことを 主張するものではない。 ・このアドレス移転ポリシ提案は、アドレス移転のマーケットに関する話題に ついては議論せず、またその種の市場またはマーケットが生じることに対して 賛成あるいは反対しない。本ポリシの立場は、JPNICとの契約に基づくIPv4 アドレスの利用者間、もしくは当該利用者とAPNICアカウント保有者間のアド レス移転を認知し、登録することである。
既存のJPNICとの契約に基づくIPv4アドレスの利用者間、もしくは当該利用者とAPNICアカウント保有者間でIPv4アドレス資源の移転を登録することが可能となる。
JPNIC コミュニティにおいて、APNIC28 でコンセンサスが得られた prop-050 相当のポリシに基づく IPv4 アドレス移転の是非。
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