017-03: JPNIC 管理下にあるIPv4アドレスの移転提案
概要
[提案ID]
- 017-03
[提案タイトル]
- JPNIC 管理下にあるIPv4アドレスの移転提案
[提案内容]
提案詳細v2(提案詳細v1はこちら)
- 提案内容の概略
Geoff Huston氏による「prop-050-v005: IPv4 address transfers」[1] は、IPv4アドレス保持者間でアドレスの移転を認めるポリシー提案である。
この提案は、2009年8月28日に APNIC28 においてコンセンサスとなり、さらに2009年11月18日に APNIC EC の承認を得たため、APNIC事務局は当該ポリシーを2010年第一四半期までに実装する予定である。
しかし、当該ポリシー提案においては、JPNIC などの NIR における当該ポリシーの適用については、各 NIR 毎に判断することとされている。
- NIRs have the choice as to when to adopt this policy for their members (i.e. members of NIRs)
本ポリシー提案では、JPNIC においても、prop-050 と同等のポリシーを適用することで、JPNIC が prop-050 を採用することを目的としている。なお、本ポリシー提案については、[提案017-02] の成立を前提とする。
用語の定義: 本提案においては、JPNICおよびその前身となる組織より、IPv4アドレスの割り振り、もしくは割り当てを受け、なおかつJPNICと契約を締結している、もしくは確認書を取り交わした組織をJPNICアカウント保持者と定義する。
本ポリシー提案では、JPNICが、JPNICアカウント保持者間、およびJPNICアカウント保持者とAPNICアカウント保持者間での移転を認めるよう、現行ポリシーの制約を変更する。また、移転を認める前提条件として、移転の当事者に対して、いくつかの制約を課す。
本提案は、既存の歴史的資源の移転に関するポリシーを再定義するものではなく、現時点において、JPNIC管理下にあるIPv4アドレスに対して適用することを意図している。
- 提案理由
- 現状の問題点
現行のJPNICポリシー[2]においては、保持しているIPアドレスの登録情報の移転は、IP指定事業者の権利の所有者が変更(合併、売却、買収などにより)された場合に限定されている。
現在、2011年から2012年の間にかけて、未割り振りIPv4アドレスの在庫が枯渇することが見込まれている。アジア・太平洋地域ではIPv4によるサービスに対して相当な投資が行われており、IPv6によるサービスへの移行には、未割り振りアドレスの在庫を利用できる期間より長い期間を要すると考えられる。
JPNICのIPv4アドレスレジストリ(記録簿)としての目的は、現在のアドレスの分配情報を正確に記録することである。
従って、未割り振りアドレスの在庫枯渇後においても、IPv4アドレスに対する需要は継続するとみられるため、そのようなIPv4アドレスブロックに対する継続的需要を満たすためにアドレス保持者からIPv4アドレスブロックが移転される時期に突入する可能性がある。
本ポリシー提案の背景にある命題は、JPNICやAPNICにより運営されているIPv4アドレスレジストリは、アドレスの分配状況を正確に反映する状態にあってこそ、一般的な利用価値を持つという主張である。もし仮に、まとまった単位のアドレス移転のトランザクションがレジストリに登録されないような事態が生じれば、広範なコミュニティにとってレジストリの価値が低下し、ネットワークそのものの整合性が損なわれる結果となる。
- 現状の問題点
- 改善したいポイント
本提案の主眼は、JPNICアカウント保持者間、もしくはJPNICアカウント保持者とAPNICアカウント保持者との間で、IPv4アドレスの移転トランザクションを認知するとともにレジストリに記録することで、JPNICならびにAPNICのアドレスレジストリとしての効用と価値を継続的に担保することにある。
移転を行う当事者がJPNICないしはAPNICに認知されており、移転されるアドレスブロックが、現行の(非歴史的)APNICのアドレス集合の一部であるならば、JPNICはその移転を認知し、アドレスを登録することを提案する。
本提案では移転の具体的な方法については規定しない。また移転自体と当事者に対し、本提案において記載されている以上の制約は科さない。
JPNICは、以下の条件に基づき、JPNICアカウント保持者間、ないしはJPNICアカウント保持者とAPNICアカウント保持者との間において、アドレス移転の要求を処理する。また、JPNICは本ポリシーに基づく全ての移転記録を公開する。
- IPv4アドレスブロックに対する条件:
- 移転対象の最小サイズは/24とする。
- 対象IPアドレスブロックは、APNICが管理している範囲内であること。
- JPNICの管理しているIPアドレスブロックは、APNICの管理しているアドレス ブロックの範囲内である。
- 現行のJPNICアカウント保持者ないしAPNICアカウント保持者に対して、割り振り、もしくは割り当てが行われているアドレスブロックを対象とする。
- 移転時より、当該アドレスブロックは移転先のインターネットレジストリに応じて、当該時点でのそのレジストリの全ポリシーに従うこと。
- 移転元に対する条件:
- 移転元組織は、当該時点でJPNICカウント保持者、ないしはAPNICカウント保持者であること。
- 移転元組織はIPv4アドレス資源の登録されている保持者であり、なおかつ、当該資源の地位に関する紛争がないこと。
- 移転元の組織は移転実施から12ヶ月間が経過する、もしくは、APNICのIPv4未割り振りの在庫が枯渇する(例:「最後の/8」資源の利用が宣言される)かのいずれかの早い時期まで、JPNICから追加IPv4アドレスの割り当て、割り振りを受ける資格を失う。
- JPNICは2003年移行、JPNIC独自の独自の割り振り用アドレスプールを持たず、 APNICのアドレスプールから直接割り振りを行っている[3]。
- 当該期間が満了するまでの期間においても、例外的な状況に置かれた会員が追加割り振り・割り当て申請を行うことを認める。JPNICはこれらの例外的な申請を慎重に監視し、定期的に包括的な統計情報を公表する。統計には会員組織を特定しない形で申請と審議結果の件数を記録する。ただし、例外条件に基づき2件以上の申請を行った会員に関しては、会員名を公表する(*1)。 (*1)APNICのポリシーでは、統計情報として経済地域も公表することとなっているが、JPNICが審査する会員は日本国内に存在することであることが自明なため、JPNICにおいては経済地域は省略する。
- 移転先に対する条件:
- 移転先組織は、当該時点で有効なJPNICアカウント保持者であること。もしくは、移転元組織がJPNICアカウント保持者である場合には、移転先組織がAPNICカウント保持者であること。
- 移転先の組織がJPNICアカウント保持者である場合には、当該時点のJPNICポリシー、APNICのアカウント保持者である場合にはAPNICポリシーの適用対象となる。特にJPNICへ追加申請を行うにあたっては、移転を受けた資源も含め、分配を受けた全IPv4アドレス空間に対して説明責任を求められる。
- APNICのIPv4空間の枯渇まで(例:「最後の/8」割り当てが行われるまで)、アドレス空間の移転を受ける者は、アドレス空間の必要性を証明しなければならない。しかし、枯渇後においては、いかなる形態のアドレス利用の妥当性審査も不要とする。
- 想定されるメリット、デメリット
- メリット
本提案は、アドレスの移転の存在を認知し、その結果を登録することにより、JPNICおよびAPNICのアドレスレジストリが、資源とその保持者に関する正確な情報を今後も引き続き確実に維持できるようにする。また、本提案は当該登録情報の正確性を信頼している関係者が、今後もその情報の正確性を引き続き信頼し続けるできることを確保する。特に、以下の効果があげられる。
- JPNICおよびAPNICのレジストリ(記録簿)が、JPNICとAPNICアカウント保持者が保持しているIPv4資源の保持状況の実態を反映し続けることができる。
- ネットワークの整合性、特に未登録のIPv4アドレス移転に起因する経路制御およびアドレッシングインフラストラクチャに対するリスクを軽減する。
- 未使用のIPv4アドレス空間をアクティブな用途に回復するため、強力なインセンティブを提供し、IPv6移行に向けてIPv4アドレス空間の余剰需要を充足するよう支援する。
- デメリット
従来のIPアドレス概念の変更
本提案は、アドレスとその価値に関連したいくつかの従来の概念を変更しうる。例えば、アドレスはネットワークにおける経路制御とエンドポイントの識別に利用するという狭義の前提や、アドレスは資産ではなく、アドレスは金銭的価値を持たないといった前提を越えうる。アドレスと、その利用に関するこれらの共通認識が変更されることで、いくつかの反応が予想される。すなわち、- アドレス空間における強力な経路集約能力が失われ、その結果として、経路制御システムに対して負荷がかかる。
- 現行のポリシーの枠組みの下地となっている、需要に基づくアドレスの割り当てモデルからの大転換を伴う。
- 会社法および契約法の観点において、アドレスを資産として取り扱うことに伴う法的影響。
- アドレスに対する税制の適用およびその動向。
- ネットワークサービスプロバイダが利用するアドレスの確保の観点で、不公平、不平等感が生じる恐れがある。
返答:これらのリスクを軽減するいくつかの要素がある:
- IPv6ネットワークが拡大する中では、IPv4によるサービスの価値が低下すると同時に、IPv6への移行の進展によりIPv4アドレスの残存価値も低下する。
- 本ポリシーがJPNICやAPNICからIPv4アドレスがまだ入手可能な状況で採択された場合には、既に実績のあるJPNICやAPNICのIPv4アドレス割り当てプロセスが、業界においてIPv4アドレス移転以外のIPv4アドレスの供給源となる。
- アドレス回収・再利用に対する注意をそらす
- 本ポリシー提案が、 IPアドレスの回収・再利用を促進する提案策定への原動力を失わせることになるとの意見も出ている。
返答:今日までに返却および回収されたアドレスは、ごくわずかである[4]。価格に基づく仕組みの導入を除き、さらなるポリシーの変更が現状を変更できるかどうかは不明である。
もし仮に、ポリシー策定でアドレスの回収・再利用を推進したとしても、未割り当てのアドレスプールの枯渇後、JPNICが必要に応じて割り当てを続けるには、必要とされる数に比べて回収されるアドレス数が少ないことは明白である。
JPNICやAPNICが、限定されたアドレスをそれより遙かに大きい需要に対して、どのように公平に割り当てることができるかという課題が、重大かつ未解決の問題として残されている。表現を変えれば、回収と再利用のポリシーにこだわることは、移転ポリシー以上に、ポリシー 問題の解決において重大な問題を残している。
- 本ポリシー提案が、 IPアドレスの回収・再利用を促進する提案策定への原動力を失わせることになるとの意見も出ている。
- JPNICが規制当局としての役割を求められる可能性
JPNICが本ポリシーを実装した場合、JPNICがアドレスの流通マーケットにおける規制当局としての役割を担うことを求められる可能性があり、JPNICには、このような規制措置の執行に必要な経験、知識、権限が不足しているとの懸念がある。また、そのような役割を担うことで、JPNICの法的リスクが増加する恐れがある。
返答:本提案は、JPNICがそのような役割を担うべきだと主張するものではない。本ポリシーの範囲は、JPNICがレジストリ内のアドレス移転を認知し、記録する範囲までであると、明確に限定している。
本ポリシーの採用がアドレスにおけるマーケットのインセンティブとなるという通説がある。しかし、これはそのようなマーケットが現行の規制構造の枠外で機能することを意味するわけでも、マーケットの参加者それぞれが尊重している体制の中で、既存の規制措置から免除されるわけでもない。
本ポリシーに関連して新たに生じる法的責任については、適切な資格のある機関による法的審査の対象とされるべき事項である。
本アドレス移転ポリシー提案は、アドレス移転のマーケットに関しては、議論せず、またいかなる種類の単一または複数のマーケットが発生することに対して擁護ないしは反対を表明しない。本ポリシー提案の立場は、JPNICアカウント保持者間、もしくは当該JPNICアカウント保持者とAPNICアカウント保持者間のアドレス移転を認知し、登録することである。
本提案では、当事者の移転に関する意思決定の過程、移転に関わる資産の問題、経済的および法的枠組み、マーケットの発生、そして、このようなマーケットに対する規制の必要性と、マーケットの規制者の特定については、明示的に含んでおらず、本提案では、JPNICないしAPNICがこのような役割を担うことを主張するものでもない。
参考文献/URL一覧
[1] Geoff Huston, Philip Smith "IPv4 address transfers", 2009年
http://www.apnic.net/__data/assets/text_file/0009/12420/prop-050-v005.txt
[2] JPNIC, "JPNICにおけるアドレス空間管理ポリシー", 2008年
http://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-01080.html
[3] JPNIC, "APNICアドレスプールからの割り振りについて", 2003年
http://www.nic.ad.jp/ja/topics/2003/20030814-01.html
[4] JPNIC, "歴史的PIアドレス回収に関する現状報告 ~歴史的経緯を持つPIアドレスの割り当て先明確化に関する取り組みの進捗報告~", 2008年
/opf-jp/opm14/jpopm14-3-1.pdf
- メリット
- 提案が採択された場合の影響範囲(指定事業者、JPNIC、ユーザなど)
- JPNICアカウント保持者間、もしくはJPNICアカウント保持者とAPNICアカウント保持者間において、条件に基づきIPv4アドレスの移転が可能となる。
- コミュニティに対し,合意を得たいポイント
- JPNIC において APNIC の prop-050 相当のポリシー提案を実装すること。また、それにより APNIC の prop-050 を NIR として JPNIC が採用すること。
[提案者]
- 白畑 真さん(慶應義塾大学 SFC 研究所)
提案の履歴
アクティビティ |
日付 |
状態 |
参照 |
MLへの投稿 |
2009年11月1日 |
JPNIC-IP-USERS 1785 |
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JPOPM17での発表 |
2009年11月26日 |
JPOPM17にて議論されました。 |
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MLでのコメント募集 |
2009年12月14日 |
(JPNIC-IP-USERS 1809) にてアナウンス |
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MLでのコメント募集 |
2010年1月8日 |
コメント募集期間終了.コメントなし.コンセンサス確定. |
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実装勧告 |
2010年1月14日 |
ポリシーWGよりJPNICに,ポリシーの実装を勧告 |
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JPNICからのアナウンスにて施行 |
2011年8月1日 |
JPNICから、IPv4アドレス移転制度を実施する旨のアナウンスを行いました(実装完了) |